アリスに捧げる花冠。

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村は死によって包囲されている。

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 毎年の事なんだけど、暑くなってきたら読みたくなる本がある。

 小野不由美の「屍鬼」という小説。

 小野不由美と言えば十二国記とかゴーストハントのシリーズで知ってる人もいると思う。

 かくいう「屍鬼」も2007年に藤崎竜作画でコミカライズされ2010年にはアニメも放送してました。そうか、あれ漫画始まったのもう10年前なのか…。

 フジリューといえばヤンジャン田中芳樹銀河英雄伝説書いてますね。相変わらず原作ありきはぶっ飛んでますが、ベーネミュンデの服はフジリュー節利いてて好きです。

 まあそれは置いておいて。

 

 吸血鬼物のホラーに見せかけた群像劇です。

 呪われた町をオマージュしてて、村がどんどん吸血鬼に襲われそれに対してどう村人が応戦していくかという話。

 原因不明のままに次々と死んでいく村人。そこへ引っ越してきた謎の一家。事態に違和感を抱く者と、それを否定する者。

 村に伝わる「起き上がり」という伝承。

 

 話の中核となるのは医者である尾崎敏夫と寺の住職である室井静信。そして1年前に村に引っ越してきた結城夏野という少年。

 序盤の話を引っ張るのはこの夏野という少年で、彼を引き継ぐような形で尾崎と室井が確信に迫り、それぞれの選択をしていくという流れ。

 村人の心境だとか背景が細やかに描写されててすごく面白い。

 異常事態に抗おうとする人達の現界に近い精神状態とか、オカルト染みた事態を有り得ないと必死に言い聞かせてる人達とか。あと村を襲う吸血鬼が完全な悪として書かれていないのもこの小説の特徴かと。

 

 敵にも理由があったとか、主人公格が相手に同情するというのは話として結構あると思うし、実際この小説内でも室井さんが吸血鬼、この小説で言う屍鬼である少女に同情している描写もある。

 屍鬼という存在は悪ではない。けれどけして人とは相容れない存在である。

 先に村人の事を書いたけど、この屍鬼達の心理描写も結構書かれてる。屍鬼という力に溺れた者や、屍鬼になってしまった女の葛藤。それから屍鬼である少女の願い。

 屍鬼の少女も被害だったと、彼女に仕える人狼は言うけれど。屍鬼が悪ではないと言うように、村人が正義という訳ではないし、逆もまた然り。

 被害者が加害者に回り、加害者が被害者に回る。被害者は誰で、加害者は誰か。

 

 多分この話は一つの村が閉じるまでの群像劇なんだと思う。

 屍鬼という亡者ではあれど、元は人間で。一つの村に住む人達の葛藤や弱さ、決断を描いた話なんだ。

 勿論。死んだ人間が蘇るとか、村全体が集団ヒステリーを起こしたような展開になるとか言うのは十分オカルトでホラーなわけですが。

 

 漫画もアニメも原作も微妙に違う。

 原作じゃ夏野君は人狼にならないし、律っちゃんと徹ちゃんは面識がない。無論桐敷の旦那はGACKTじゃない。

 ただ初見は原作より漫画の方がわかりやすいかも知れない。登場人物がすごく多いから文字じゃどれが誰だかわからなくなる。

 その点フジリュー版は名前がわからなくても描き分けがすごいから人物把握するのにはいいと思う。名前わからなくてもキャラデザが特徴的だからああこの人か、ってなる。よくあそこまで描き分けたよなぁ…。

 あ、ウミガメのスープをさらっとぶっこんで来た時はどう捉えるのが正解なのか悩んだ。

 

 ただ可能なら原作も是非読んで欲しい。

 祭事についてや村の地形とか。細かい部分まで作り込んでて、何より中盤からラストに向けての疾走感がいい。

 夏野くんの疑念とか尾崎先生が一人で戦い始める所とか室井さんの葛藤とか。どんどんページを捲りたくなる。

 

 尾崎と室井さんがそれぞれ「若先生」と「若御院」なんて呼ばれてるのが個人的なツボです。

 二人は幼馴染で仲は良好ではあるけど、色んな所が正反対。若先生は憎まれ口は叩くしTシャツにジーンスの上から白衣を羽織るような不良医師なのに対し、若御院は悲観的になりやすく頑固な一面もあるけど穏やかな気質。対比になってるのが面白い。

 夏野君は夏野君で、ちょっと冷静すぎる所はあるけどだからこそ原作での夏野くん自体の影響力の小ささとかが目についてくる。冷静で村に起こっている異常に気が付いているにも関わらず、無力な存在。そのあたりがやっぱり彼も16なんだなと思う。

 

 私は若先生が好きだからついその視点で見ちゃうけど、若御院や夏野君。その他にも魅力的な登場人物はたくさんいて、どこにスポットを当てても十分楽しめると思う。

 物語は7月の後半から11月にかけての話。

 良ければこれからどんどん高くなってくる気温と、冷房によって反比例みたいに下がって行く室内温度のお供に一冊どうぞ。

 

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